私の心エコー検査 第5回 坂田好美先生(杏林大学 第2内科准教授)
今月も前回に引き続き杏林大学 第2内科准教授の坂田 好美先生にストレス心エコー検査に関して
執筆いただきました。
坂田先生は日常臨床においてコントラストエコーと同様に数多くのストレス心エコー検査を
こなされています。このストレス心エコー検査とコントラスト心エコー検査は虚血の評価や心筋のViability評価などに
大変有用な検査方法であり、特にストレス心エコー検査はアメリカでは心筋シンチよりも広く行われています。
ただし本邦では保険の適応が無い為、日常臨床の現場でこの検査を行っている施設は非常に少ないのが
実情で、聞いたことはあるがやったことがないという施設がほとんどだと思います。そのような現状ではありますが
ストレス心エコー検査に関して詳細に書かれたこの原稿を読んで始めてみようと思われる方が一人でも増えれば
ストレス心エコー検査の普及を願うものとして嬉しく思います。
ストレス心エコー
どのような場合にストレス心エコーを行うか?
ストレス心エコーの目的は、
(1) 心筋虚血の診断
(2) 心筋viability の評価
(3) 弁膜症における重症度・手術適応および予後の評価
(4) 非心臓手術時のリスク評価
(5) 肥大型心筋症における潜在的流出路狭窄の診断
(6) 拡張型心筋症の収縮予備能の評価
などであり、虚血性心疾患にとどまらず様々な疾患の病態把握に有用である。
ストレス心エコーの負荷の種類は、
(1) 運動負荷心エコー:トレッドミル・エルゴメーター
(2) 薬物負荷心エコー:ドブタミン・ジピリダモール・アデノシン
(3) その他:ハンドグリップ負荷・バルサルバ負荷・過換気負荷
1.運動負荷心エコー
運動負荷は、冠動脈狭窄・心筋虚血の診断に用いられており、診断率は感度70縲鰀95%、特異度75縲鰀95%である。
生理的な負荷方法であり、運動耐容能も評価できる負荷法である。ただし、高齢者や整形外科的疾患のある症例など運動が
できない症例には適さない。また、負荷中の心エコー画像がとりにくく、負荷前後の心エコー評価のみで負荷中の評価は
困難である。しかし、負荷後でも拡張期壁運動動態の異常は遷延し残っており(postischemic diastolic stunning)、
speckle tracking法でdiastolic stunningを評価することにより、負荷後の心エコー画像でも75%以上の冠動脈疾患を
感度97%、特異度93%で診断可能であると報告されている。
僧帽弁狭窄症で、自覚症状がなく弁口面積>1.5cm2の症例では、運動負荷心エコーで、肺動脈圧>60mmHg、
僧帽弁弁口面積>15mmHgとなった場合は手術適応となることもある。このように冠動脈疾患以外に弁膜症や肺高血圧症の
診断や治療適応の選択にも運動負荷心エコーは有用である。
(1)トレッドミル負荷
トレッドミルは、運動のできる症例においては最大負荷まで到達できる最も生理的な負荷法である。
トレッドミル負荷中は、12誘導心電図の変化を評価し、負荷前と負荷後に心エコーの所見を評価する。
(2)エルゴメーター負荷
25Wから50 W, 75 W, 100 W, 125Wと負荷量を3縲鰀5分毎に増加して行う。
座位エルゴメーター負荷では、負荷中の心エコー評価は困難であり、負荷前と負荷後の壁運動を含めた心エコー所見を評価する。
臥位エルゴメーター負荷では、負荷中も心エコー画像をとることは可能であるが、呼吸や体動の影響などもあり壁運動の評価が
困難な場合がある。
2.薬物負荷心エコー
薬物負荷は、運動不可能な症例(高齢者・整形外科疾患症例・視力低下症例・など)でも、一定の負荷量がかけられる、
また、負荷中も良好な画像描出が可能であり壁運動を含めた心エコー所見の評価が可能であり有用である。
(1)ドブタミン負荷心エコー
ドブタミンは主にβ受容体刺激作用をもち、高用量になるとα受容体刺激作用が加わり、心筋収縮力の増加、
心拍数・血圧上昇を生じる薬剤である。
低用量負荷では、心筋梗塞後の気絶心筋stunned myocardiumや高度冠動脈狭窄による冬眠心筋hibernating myocardiumなど
収縮期壁厚肥厚が消失・低下した心筋が、ドブタミンにより心筋収縮力が増加するか否かを評価することにより、
心筋viabilityの有無を評価できる。心筋viabilityの診断率は、感度74縲鰀95%、特異度73縲鰀90%である。
また、拡張型心筋症などの心筋症でも低用量ドブタミンにて収縮力が増加する領域は収縮予備能があり、治療により慢性期の
心筋収縮力が改善する指標となる。
また、心拍出量が低下し左室窶泊蜩ョ脈圧較差が低値の大動脈弁狭窄症の症例では、ドブタミン負荷にて心拍出量を増加させ、
自覚症状・圧較差・弁口面積・心機能の変化を検討し、手術適応や予後を評価することができる。
高用量負荷は、心拍数・血圧を上昇させ、心筋酸素消費量を増加させることにより心筋虚血を誘発し、主に冠動脈疾患の
冠動脈狭窄・心筋虚血の検出に用いられる。冠動脈狭窄の診断率は、感度75縲鰀90%、特異度75縲鰀95%、正診率76縲鰀92%である。
- 低用量ドブタミン負荷:3γ, 5γ, 10γと3縲鰀5分毎に増量する。各ステージで壁運動をふくめた心エコー所見・血圧・ 心拍数・心電図の評価を行う。
- 高用量ドブタミン負荷:5γ, 10γ、20γ、30γ、40γおよび心拍数が目標心拍数に達しない場合は硫酸アトロピンを 0.25mgずつ1分おきに静注する。
(2)ジピリダモール負荷心エコー
ジピリダモールすなわちペルサンチン負荷は、正常冠動脈では冠動脈を拡張し冠動脈血流量を増加させるが、
狭窄した冠動脈支配領域では冠動脈盗血現象により心筋虚血を誘発する負荷である。心筋虚血の評価は、壁運動低下による
評価と、心筋コントラスト法との併用による心筋灌流障害の出現により評価の両方が可能である。
- 低用量ジピリダモール負荷:0.56mg/kgを4分かけて静注する。心筋コントラスト心エコーとの併用により 心筋灌流異常の検出を行い、心筋虚血の診断を行う。冠動脈狭窄の診断率は、感度81縲鰀85%、特異度68縲鰀80%である。 また、負荷前後で冠血流速波形を記録し冠動脈予備能を求める事により、冠動脈狭窄の診断も可能である。
- 高用量ジピリダモール負荷:0.56mg/kgを4分かけて静注したあと、4分間後に0.28mg/kgを2分かけて追加静注する。 主に左室壁運動低下を評価し、冠動脈疾患の診断を行う。感度77%、特異度92%である。
(3)アデノシン・ATP負荷心エコー
アデノシン・ATPはジピリダモールと同様に冠動脈拡張し冠動脈の血流を増加させるが、ジピリダモールより
半減期が短く、作用の持続時間は静注後10秒から2分である。このため、冠動脈予備能(coronary flow reserve: CFR)の評価時に
使用される場合が多い。冠血流速波形の最大流速は20縲鰀25cm/secで、平均血流速は15縲鰀20cm/secである。
CFR=負荷時拡張期平均冠血流速/安静時拡張期平均冠血流速で計算される。CFRは正常で3.0縲鰀4.5であり、CFRが2.0以下の場合、
70%以上の冠動脈狭窄の診断率は感度90%、特異度93%である。
- 低用量アデノシン・ATP負荷:CFR の評価に用いられる。0.14mg/kg/minを2分間静注する。 その前後で冠血流速波形を記録する。
- 高用量アデノシン負荷:左室壁運動の評価に用いられる。0.16、0.20、0.24、0.28mg/kg/minを2分毎に持続静注し、 各段階で左室壁運動の評価を行い、心筋虚血の評価を行う。
負荷心エコー終了基準
- 最終プロトコールまで終了
- 心拍数=(220-年齢)×0.85以上の上昇
- 収縮期血圧220mmHg以上/拡張期血圧120mmHg以上
- 血圧60mmHg以下のショック
- 持続性頻拍性不整脈出現
- 冠動脈2枝以上の支配領域にわたる広範囲の壁運動低下
- 耐え難い胸痛、頭痛、嘔気、尿意
負荷心エコー時の注意点
1. 運動負荷・ドブタミン負荷など血圧上昇する負荷は、大動脈瘤やコントロール不良の高血圧症例では禁忌である。 また、ジピリダモール・アデノシン(ATP)負荷は、気管支喘息症例では禁忌である。
2. 多断面分割画像表示(quad screen)を用い、負荷の各ステージの画像を同一画面上に表示し比較評価する。
3. 各負荷段階で、同じ断面の画像を記録するように心がける。ただし、負荷途中で他の断面で壁運動異常が出現した場合は、 それ以降のステージではその断面も加えて記録する。
4. 左室壁運動異常の評価は、主にその場で主観的に視覚的に評価しているが、近年、speckle tracking法などで客観的に、 post systolic shortening、diastolic stunningを検討することにより、より診断率高く、軽度の心筋虚血でも評価できることが 報告されている。診断に迷う例では、これらの評価法で詳細に検討することも心がけると良い。





